マリアと王妃は、含みのある顔で微笑み合った。
 最初はルクレツィア寄りかと思われた王妃だが、彼女の化けの皮が剥げてきたおかげで、マリア側につくと決めたようだ。

(この変わり身の早さも王妃には必要なのでしょうね)

 脳内のノートに書きこんでいると、白髭をたくわえた執事が「お客様です」とレイノルドを連れてやってきた。

 彼は、お仕着せ姿のマリアを見るなり目を丸くして驚く。

「あんた、なんで……」
「王妃殿下の侍女になりましたの。しばらくこちらで行儀見習いをさせていただきます」

 両手でスカートをつまんで行うカーテシーは、背中の角度やピンと伸ばした指先まで完璧だ。

 厳しい妃教育で礼儀作法を叩きこまれてきたマリアには、王妃から学ぶことなんてなさそうに見えるのだろう。
 レイノルドは理由を聞いても不審げだった。

 執事が下がるように目で命じてきたので、マリアは王妃にも一礼した。

「わたくしはこれで失礼いたします」
「待ってくれ」

 呼び止めたレイノルドに微笑んで、マリアは廊下に出た。

(わたくしの役目は、レイノルド様たちにかけられた魔法の解き方を探ること)

 窓から別邸の方を見る。一段と冬に近付いて陽が落ちるのが早くなった。
 空はじょじょにオレンジ色に染まり始め、山のねぐらへと帰る鳥の群れが遠ざかっていく。

(夜陰にまぎれて侵入できるかしら?)

 別邸を修理した際に錠前も付け替えているが、さすがにジステッド公爵家の物は使えなかったので、マリアは鍵を持っていない。

 どうするかと悩んでいたら、廊下の奥からなまった話し声が聞こえてきた。

「だがら、洗濯はあだしらがやるって」
「そうしねえと主様に怒られちまうだ」