「部屋をまちがったことといい、ソファに寝てる俺に気づかず座ったことといい、完璧そうに見えて抜けてるな、あんた。『高嶺の花』だのなんだのと持ち上げられているけど、本当はかわいいじゃないか」
「わたくしが、かわいい?」

 綺麗だとか、麗しいだとかいう褒め言葉はよく浴びるけれど、可愛いと言われるのは珍しい。
 幼児期から久しく聞いていない気がして、マリアの胸はさわさわ落ち着かない。

「ご冗談はおよしになって。わたくしに可愛げがないことは承知しております。こんな容姿では、流行のドレスも着こなせませんのよ。だから、アルフレッド様はわたくしを……」

 選んでくれなかったのだ。言おうとした言葉は飲み込んだ。
 言ったら、また泣いてしまいそうだったから。

「サボり魔のレイノルド様は、どうして参加していらっしゃるのかしら? 他の令嬢とお近づきになるためなら正直におっしゃって。求婚については考え中ですから、わたくしは怒りませんわ」