マリアが寂しげに笑うと、クレロの膝からバスケットが落ちた。
 驚いて肩をはねさせるのと手を取られるのは同時だった。

「どうして、そんなにも、けなげでいらっしゃるのですか」

 クレロの手の平には、剣の稽古でできたマメがある。
 皮膚も厚く、骨張っていて男らしい。
 レイノルドとは全然ちがう感触に、マリアは固まってしまった。

 そんなマリアを、クレロは熱に浮かされたような表情で見つめてくる。

「そんな酷い男、たとえ王子でも尽くす必要はありません。私なら、貴方にそんな思いはさせない……」

 うるんだ瞳が蜂蜜色に光った。

 遊び人めいた余裕のある男性だと思っていたが、マリアへまっすぐに注ぐ視線は誠実だ。
 その一方で、虫を惹きつける甘い蜜のような情欲も感じる。