「ありがとうございます。食べたらお化粧が崩れないかしら」
「崩れたら直せばいいのですよ。私はいくらでも待ちますし、時間もたくさんあります。それよりも今は、マリアヴェーラ様の不安を取りのぞく方が重要だ」

 そう言って、マリアの隣に座る。
 こんな近距離でレイノルド以外の男性と話すのは久しぶりだ。身構える気にならないのは、クレロが持っている柔らかな色気のせいだろう。

「今から、私はジステッド公爵家に雇われた肖像画家レンドルムではなく、貴方の話し相手のクレロです。失礼ですが、第二王子殿下と何かありましたか?」
「……どうしてお分かりになったのかしら。そうやって、いつも結婚を控えた女性にちょっかいを出していらっしゃるの?」

 マリアが冗談で返すと、クレロは楽しげに笑った。

「そこはご想像にお任せしますよ。ですが、相手の気持ちが分かるのは肖像画家だからです。キャンバスに写し取った像から、モデルの気持ちが伝わってくるのですよ。喧嘩でもなさいましたか。それとも、彼の昔の恋人でも出張ってきましたか?」