にっと唇を引いたクレロは、絵の具をしぼったパレットを置いて、かたわらにあったバスケットを持ち上げた。

「流行のお菓子を買って来たのです。よろしければ、お一ついかがですか?」

 チェックの布をめくると、バスケットの中には小さなチュロスが並んでいた。
 チュロスは星型の口金でしぼり出した揚げ菓子で、タスティリヤ王国の全土で食べられている庶民的なお菓子だ。
 一般的に細長い棒の形をしているものだが、これはハート型に成形されていて、マリアの乙女心をくすぐった。

「かわいいですね……」
「そうでしょう。ハートの形をしているからでしょうか。これを食べると恋が叶うという噂で、店には長蛇の列ができる人気なのですよ」

 クレロは、パラフィン紙にチュロスを一つ包んで、マリアの手に握らせてくれた。