だが、もしもマリアが離れていってしまったら。
 今度は、悪辣王子になるだけではすまない。

 やる気を失い、全てを側近に投げ出し、放蕩《ほうとう》にふける。そのうちに、国を傾け、人を苦しめる、タスティリヤ史上最悪の国王になるだろう――。

「ここにいたのね、レイノルド様! お茶を持ってきてあげたわ、よ……」

 キンキンする声に目を開けると、ティーワゴンを押したネリネがいた。
 レイノルドが身じろいだので、マリアも「ん……?」と気を戻す。

「庭園でお茶なんてめずらしいと思ったら……!」

 ネリネは、鬼のような形相で眠い目をこするマリアを睨むと、後ろに連なっていたメイドに見せつけるように、大げさに頭を抱えた。

「痛いっ!」