マリアは夏が近づくと気持ちが明るくなるが、レイノルドは反対だ。
 彼は夏が苦手。暑がりなのである。

 学園に通っているときは、気温が上昇する昼下がりになったら授業をサボり、木陰で昼寝をして乗り切っていた。王子たる彼に注意できる教師は一人もいなかった。
 そのせいで、すっかり昼寝ぐせが付いてしまったようだ。レイのルドは、先ほどから、あくびを何度も噛み殺していた。

「上着を脱いで楽にされては? 側近の方以外には誰もおりませんもの」
「そうする」

 黒いコートを脱いだレイノルドの胸元で、スズランのネクタイピンが光る。同じ意匠は、マリアが身につけた水色のドレスにもあった。
 おそろいを意識して、マリアは頬を紅潮させた。

(レイノルド様も、いつも付けてくださっているのね)