有無を言わさずに手を握られてしまった。
 大きな手の平はヒンヤリと冷たくて、心の優しい人は冷えた手を持っているという話を思い出す。

 レイノルドは優しい。
 少し悪戯好きで、口が悪いけれど、いい人だ。本当に。

「あんたが行きたい場所に連れて行くが、こんな市場で本当にいいのか?」
「はい。巷の恋人たちがする鉄板のデートをしてみたいのです」

 マリアが読んだロマンス小説では、待ち合わせに成功した恋人たちは、手をつないで店を見てまわる。
 服やアクセサリー、食器を見ることで、相手の嗜好を確認するのだ。

「いろいろな店を見て歩きたいですわ」
「分かった。じゃあ、行くか」