さっきまでの騒動が嘘のように、しんと静まり返る。
ほんの数分間の間に怒涛の展開すぎて、実のところあたし自身も上手く状況が飲み込めていない。
そこに、
「大丈夫か?」
目の前にしゃがみこんで、手を差し出してくれた冬哉。
ハッとして頷いた後、冬哉の手を取ると、握り返してくれた手はとても温かくて。
そして、その瞬間ホッとして……泣きそうになった。
正直あたしも、ほんの少し怖かった。
友永さん等に水をかけられそうになった時、心の奥で冬哉の名前を呼んだ。
子どもの頃からずっと、いつだって、あたしがピンチの時には助けに来てくれる。
今日だって──。
「ほら」
ぐんと手を引いてもらって、立ち上がってから、
「冬哉」
名前を呼んで、「ありがとう」と言おうとした……あたしの声は、空中に消えた。
それは冬哉が、あたしの横を通り過ぎていったから。
「三浦さんも大丈夫?」
あたしに向けたのと同じ声色で問いかけ、冬哉が手を差し出したのは……はるか。