「・・・フゥ・・・フゥ・・・」

「? 牡丹?」

いつの間にか、私の隣で時代劇ドラマを見ていた牡丹が、私の肩に寄りかかって眠ってしまう。私もそうだけど、テレビを見るのは無意識に疲れてしまう。だから私もよく寝落ちしては、内容をさっぱり見ていない事もしばしば。
テレビに合わせてコタツが組み合わされると、ますます眠気が度を増してしまう。
もう2人一緒にこたつの中で眠ってしまうのは、冬の恒例になった。気づいた方がスイッチを切るのも、暗黙のルール。
私は一旦映像を停止して、近くにあった毛布を牡丹にかけてあげる。
自分だけ先を見て、後々になってから「こんな話だったよ」と言われるのは、見ていない人からすれば何の得にもならないだろう。
テレビを見てからもう2時間は経っている、テレビを見ていると時間の感覚が狂ってしまうのも、また奇妙な事だ。でも、テレビも執筆する作品のネタ集めには丁度いい。
今の時代は本当に便利になった、『メモ帳』も『録音』も、全てスマホ一台でどうにでもなる時代なんだから。
私はさっきまとめたメモ張を一旦チラシなどの紙に書いてから、使えそうなネタ等を探る。肩に寄りかかっている牡丹を起こさないように、筆圧をなるべく抑えながら。
部屋には彼女の吐息しか聞こえない。時々家電が唸るくらいで、外を走る車の音も、何故か少ない気がする。ニュースを見て今どんな状況なのか確かめたいけど、それは後でもいいだろう。
私はテレビのリモコンを掴もうとしたが、途中で手を引っ込める。テレビを見ていたら、ネタ探しの時間が削れてしまう。何より、ぐっすり眠っている彼女を起こしてはいけない。
彼女は私に全身を預け、穏やかな寝顔を私に見せつけてくる。可愛い、可愛いとしか言えない。ほっぺを突きたい気持ちを必死に堪えながら、私は目の前のチラシに集中する。これほど誘惑が重なると、人間ヤケになってしまうものだ。
でも心の中では、「まだしばらく起きませんように」と、誰かに念じる自分がいた。誰なのかは本当に分からないけど。
彼女の頭は、とても軽い。その小柄な体で、私をいつも支えてくれている事には、感謝を通り越して心配になってしまう。
でも変に気を使うと拗ねてしまうのも彼女である。その拗ねた表情も可愛いけれど、拗ねると私の生きがいが全部無くなってしまうようなもの。
私は長年、牡丹にずっと支えられていた。幼い頃に両親を失った私にとって、牡丹こそが唯一の肉親に近い。彼女が何故、ここまで私に尽くしてくれるのか不思議なくらいだ。