「一番大事なのは、膝だぞ。深山、分かるか?ここだ、ここ」

円を描くように何度も何度も膝をさすられ、あたしはとっさに先生から距離を取った。

「あ、ありがとうございました!!膝ですね。よく分かりました」

目の下が小刻みに震える。こんなのただの指導の一環だ。

変な風にとらえるあたしが間違っている。

「分かったならよかった。あと3か月、一緒に頑張ろうな」

先生はあたしにそっと近付き、肩を抱いて顔を覗き込んだ。

「深山はまつ毛が長いなぁ。大人になったら化粧映えする顔だ」

「え……?」

「先生だって人間だからな。頑張っている子を応援したくなるものだ」

「先生?」

「深山……」

先生の顔を徐々に近付いてくる。

男の子と付きあった経験がないあたしでも、今から先生がしようとしていることの予想ぐらいはついた。

経験はなくたって高校生なのだ。そのぐらいわかる。

「――やめてください!!!」

あと一歩というところであたしは先生の体を両手で押し返して声を荒げた。

「どうしてこんなことを……?」

「深山、お前は本当に固いなぁ。ただのスキンシップだろう。そう熱くなるな」

「す、スキンシップで先生はあたしにキスしようとしたんですか?」

「キスなんかしていないだろう。言いがかりはよせ」

先生がニヤリと笑う。

「失礼します!!」

あたしは先生に背中を向けて駆け出すと、職員室を飛び出した。