よし、焼けた、とフライパンの火を切ったとき、汐音は気がついた。
スマホに着信していたことに。
「あれっ?
おにいちゃんから……
じゃない。
渡真利さんの方だ」
と汐音はスマホを見て眉をひそめる。
だが、ひょいとそのスマホを取り上げられた。
「あっ、たぶん、仕事の話なんでっ」
急ぐんですっ、と求が高い位置に持ち上げてしまったスマホを取り返そうと汐音は手を伸ばす。
だが、求はスマホを返さずに、
「……俺は渡真利さんというか、繁さんほど、まだお前の近くには居ない気がして」
と言ってきた。
「……か、加倉井さんほど、私の近くに来た人は居ませんよ」
そう言い、汐音は赤くなる。
「求」