もう私の前にはいないのに。

 私を睨む大地君の冷酷な瞳が、まだ私の脳内スクリーンに映し出されたまま。

 ザラザラ痛む心に手を当て、自分の家に入るため庭を歩いていると


「アイツと付き合ってないわけ?」


 隣の家の庭から不愛想ボイスが飛んできた。

 

 ハッとして声の方に顔を向ける。

 我が家とむち君の家の間には、胸の高さの柵があって。

 むち君はため息をはきながら、柵の上に頬杖をついていた。



「むち君、アイツって?」


「大地って奴。本名がリクだっけ? 大地だっけ?」


「ま、どっちでもいいけど」と付け足したむち君は、だるそうに頭を掻いている。