柔らかく微笑む大地君の瞳に、うっすらと涙が浮かんでいる。
 
 その顔を見たら、私も涙が堪えられなくなっちゃった。



「なんで、望愛ちゃんが泣くかなぁ?」


「大地君が泣いてるから……」


「俺、泣いてなんかないし!」



 相手をいじって自滅するとこまで、お兄ちゃんそっくりだよ。

 素の大地君とお兄ちゃんって、似ている部分がたくさんあったから仲良くなったんだね。



 大地君はまぶたににじむ涙を袖で豪快に拭い、ふたたび真剣な表情を浮かべた。



「俺と姉さん、本気でパティシエを目指すことにしたんだ」


「家をつぐの?」


「親と同じ道はなんか嫌って、ずっと避けてきたけど。両親が作るモンブランが無かったら、譲さんと知り合うこともなかったし。譲さんがおいしいって言ってくれたケーキ、俺も作れるようになりたいんだ」



 大地君はお兄ちゃんを思い浮かべるように、オレンジ色の夕焼け空を見つめている。


 パティシエか、素敵な夢だな。

 大地君なら絶対に叶えられるね。