もぐもぐ。あまりにもおいしそうに食べてくれるからもうひと切れあげた。おかげで自分の分はなくなっちゃったけど、心は晴れやかだった。
……あの瞬間までは。
「とーかちゃん、これはなに味のケーキなの?」
キラキラした瞳で問いかけてくる。マッシュルームヘアがなんだか可愛く見えてきた。
ちびなのも可愛い気がしてくる。よし、子分にしてあげよう。このケーキを気に入ってくれたなら毎日作ってあげよう。
「にんじんケーキだよ!」
「……え」
「ママはにんじんを使った料理が得意なんだあ。とーかもにんじん大好きなの」
「にんじん……」
あれ、様子が変だ。
「にんじん……」
「なりさくん?」
ぴかぴかがうるうるに変わっていく。あれ、なんで?なんで泣いちゃうの?
「うわーん!にんじんなんてきらいだ!きらいなのにとーかちゃんが食べさせてきた!」
「ええええ…」
びええって泣きわめきはじめた成咲に、友達も先生もどうしたどうしたと集まってくる。成咲はあたしを指差しながら「とーかちゃんがぼくのきらいなものをたべさせてきた」と言いつける。
ちょっと待ってよ。純粋無垢な当時のあたしは慌てた。自分が悪者みたいになってるのがこわかった。
「で、でもなりさくん、おいしいって言って食べてくれたのに…」
「にんじんって知ってたら食べなかったー!」
おかげでそのあとの水族館めぐりのつづきはぜんぜん楽しめなかったよ。
今思えばなんてわがまま人間なんだ。最低最悪のワルガキだ。それでも健気な幼児だったあたしは泣かせてしまって悪かったと反省した。