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成咲と本格的に険悪になったのは幼稚園年中さんの秋の遠足だった。
町の小さな水族館でのスケッチがお題。
それから庭園でレジャーシートを敷いてお弁当をみんなで食べることが目的で、あたしたちは同じ班だった。
ママが作ってくれたお弁当を食べた後、みんなにケーキを配った。もちろん成咲にも。
当時の成咲はきのこみたいなかたちの黒髪マッシュルームヘア。
他よりひと回り身体が小さくて、水槽を見るために背伸びをいっぱいして首を上げすぎたせいで後ろにひっくり返っていたのをさっき見かけた。
走るのも歩くのも遅くて、人見知り。生意気は言うくせに友達とけんかして泣かされてる弱虫ってだけの印象で、特に話すような仲ではなかった。
「なりさくんにもあげるね」
「あ…ありがとう」
小さくつぶやいて、お気に入りのにんじん模様のタッパーに入れていたケーキをひと切れ口に入れてあげる。
するといつも泣いてるまんまるの瞳がぱかっと大きく開かれた。
「おいしい…!こ、これ、とーかちゃんのママが作ったってほんとう?」
「うん!でもとーかもお手伝いしたんだよ!だからよかったあ」
「ぼく、ぼくのママが作ったもの以外のものを食べて、おいしいと思ったのははじめてだよ!」
「わあ、本当によかったあ」
なんだ、泣き虫なくせに生意気なおバカさんだと思ってたけど、いいところもあるじゃん。なんて思ってたんだ。
これからは泣かされてたらかばってあげてもいいかなとも思った。