「ま、失恋を糧にさ、さらに男を磨けばいいじゃん、ね」

「とーかちゃんって他人のことは基本前向きだよね」

「きみの好きだった人がそうなの。そうじゃなきゃ相談役は務まらないでしょ?」

「…好きになってよかった。とーかちゃんも、いろいろ話聞いてくれてありがとうね」


そう言ってベンチから立ち上がる、完璧くん。

次はそれを崩せる人と出会って両想いになって幸せになってくれたらいいなあ。きっとこれ、姫春も思ったんじゃないかな。


「何も、できなくてごめんね」


あたしは姫春の味方だから、彼の味方をできなかった。それはちょっとくるしかった。

誰かの気持ちを知るって、そういうことなんだって知った。


「とーかちゃん、やっぱり、両想いは大事にしなくちゃだめだよ」

「え、」

「えーっと、成咲くんも!両想いならちゃんとふたりで一緒にならなくちゃだめだよー」


今の流れでなんでちょっと離れたアイツにまで声をかけるの。

あーあ、不機嫌な顔になっちゃった。


「好きな人できたら教えてね」

「うん。とーかちゃんも、恋人できたら教えて」


それは、いつになることやら。

そうボヤくように言ったら「素直になればすぐだよ」と、完璧よりちょっと優しい笑みで行ってしまった。


素直になれば、なんて、あたしから一番遠いことを、優しく言うのはずるいよ。

その言葉の中でだけは夢を見ていたくなってしまう。


失恋…。

想像しただけでこわい。不安でいっぱいになる。
隣を歩くのん気な顔が憎たらしい。


「成咲…失恋って、どう思う?」

「はあ?」


なんだよ突然、みたいな反応をされる。