模試の結果、志望大学には余裕で入れそう。まあ油断は禁物だと思うけど。
それより、何気なく入れた……A大、B判定って。
今まで◎とかAとか5とか10しか見たことがなかったからびっくりしちゃった。さすがに、これは。
「そそるだろ」
「なんであたしの頭の中を代弁するんですか、矢川先生」
「だって永作、表情に出るからわかりやすいし」
理由になってない。まあいいんですけど。
「A大受けたくなってきた?」
「え、あ…」
たしかに、どうせアイツが県外に行くならもう、あたしはこっちに残ってあげる必要もないってことだよね。
それならA大を挑戦してみてもいいのかも…。
県外って言っても近いからママたちに心配かけることもないだろうし。
「方針変えるならもうこれが最後のチャンスだぞ」
やけに真剣な顔で言う。これでも担任なんだなって思った。
「…受けてみようかな」
「まじ?俺のクラスからA大出るとか…褒められるじゃん」
目的それだったのかよ。先生って職業も大変なのかもしれない。だって成咲みたいなバカも、あたしみたいな優秀な生徒も同時に見なくちゃならないもんね。
「伊野はけっこー成績あがってきたよ」
いや、だから、なんでアイツの話になるんだよ。
「予備校行ってがんばってるもんな」
「…よっぽど志望校に行きたいんでしょうね」
「そりゃなあ」
どこ受けるんだろう。でもあっちが聞いてこないのにこっちから聞くのはなんだかなあ、癪だよなあ。
意地とはちょっとちがう。
もうなんというか染みついてしまってる。
自分でも呆れるほど、この気持ちを、隠すことが。