「終わっちゃったね」
もう一周は強請れなかった。
コイツもワガママを言わなかった。
もう裾は掴めずに、いつも通り、半歩前を歩く背中をただ眺めるだけ。
あんなふうに思っていたんだね。
効果はあったのかもしれない。
淋しい効果だったなあと、むなしくなる。
今度はちゃんとヘルメットは受け取ったし、背伸びをしながら自分でシートへ座った。
あたしのことわすれちゃうのは、コイツのほうなんじゃないかな。
きらいなやつのこといつまでも覚えているわけないもん。
「あ、伊野くん!」
「……」
「おー、会ったな」
「会ったねー!やっぱりデートだったんだ」
フェイスのスモークのせいでよく見えないけど、声をかけてきた集団の中にあの子がいる。
一度コイツと一緒にいるところを見かけたことがある、予備校の女の子。こんなところで会うなんて。しかも今の会話、お互いがここに来ることを知っていたみたいだった。
気に入らない。
なんで最後の最後でこうなるんだよ。デートだってわかってるなら話しかけこないでよ。
「いや ——— デートじゃねえよ」
そう言って彼はその子たちに手を上げて、バイクを出した。