コイツ、ほんとうに県外の学校に行くんだよなあ。そのために予備校通って、最近じゃ今までだったらぜったいわからないだろうなって授業の問題も解いてるし。
「オマエ、怒るかもしれないんだけど」
いつもだいたい怒ってるけど、今日はあんまりいらいらしない。
だってあんな簡単に身体に触ったと思えば、なんてことないみたいに抱っこして、何事もなかったようにバイクの運転されちゃ、こっちが突っかれる隙がないよ。
「その傷があれば、どこにいても、誰と何してても、橙花はおれの存在を一生わすれられないだろうなって思ってる」
「——…っ」
太陽が落ちていくスピードよりもはやく観覧車は進んでく。下にいくから、進んでいるのかわからなくなるけど、たぶん、進んでいる。
「さすがに怒っていいからな、これ」
「……傷のせいじゃ、ないから。そもそもこの傷、アンタのせいじゃない」
「おれだろ、ふつうに。どう考えても」
傷のせいじゃなく、あたしはこれから先何があっても、誰と出会っても、成咲のことをわすれたりはしない。
小さいころから知ってる。
気遣うことなく言い合える。
それだけじゃない。
「…あんなことのせいにしたくないよ」
あたしが隠した気持ち。
どうして秘密にしているのか、どうして、そう思ったのか。それはあんな出来事のせいじゃなくて、もっと、ちゃんと、温もりがあるはずなの。
だけど成咲は、そうは思ってないんだね。