「疲れてないならあっちも行く?」


外に出ると成咲が指さしてきたのは遊園地があるほうだった。


「いや、アンタ苦手でしょ」

「いつの話だよ」

「え、もう高いところも速い乗り物もいけるようになったの?」


信じられない。なんでもこわがっていた成咲が。


「なに本気で驚いた顔してんの?いつまでも子供じゃねーんだよ」


この前は引っ掻いてきたくせに、親指でぐいっと頬を撫でてくる。バカにするようで、そうでない。

逃げるように走って行こうとするその裾を持つ。


「……何乗る?」


その時ちょうど目の前にあったからそれにした。


「観覧車!」

「だな。あれはそそるわ」


いや、失敗したと思ったよ。

並んでいる最中はなんとも思わなかったけど、乗って気づく。こんな狭いところに今の状況でふたりきりって……なんかもう、いろいろとしんどい。


さっきまでふつうに喋っていたコイツは向いに座るなり窓枠に肩ひじをついて、口元に指をかざして外を見ている。


いや、なんか喋れし。

外に何かあるのかとあたしも見てみたけど、やけに晴れた夕方の空しかない。

もうすぐてっぺんだ。小さい観覧車だからはやいなあ。


「ねえ、隣行ってあげようか」

「なんでだよ」

「やっぱり高いところこわいかなって思って」

「とか言ってそっちがこわいんじゃねーの」


いやまったくこわくないんだな、これが。高いところは得意だし好きだ。気持ちがいいなって思うから。


「なあ、もう髪結わないの」

「え…あ、うん……傷見えるし…」


見せていたんだけどさ。もういいんだよ。どうせ効果はなかったみたいだし。