いや、なんかさあ…期待なんてしてなかったけど、コイツのために可愛い服を着たのにって思うとすっごい腹が立つんだよね。

受け取らずにいると強引に被せられる。髪だってハーフアップにしたのにその被せ方じゃ崩れちゃうよ、バカ。


「乗れよ」

「言われなくても乗るけど、このバイク大きいから乗りずらいんだよね」


とおそらくコイツがすごく大事にしているものにケチをつける。だって気に入らないんだもん。

そう思っていると彼はスタンドを下ろしてバイクを止め、向かい合ったあたしの脇に手を通してくる。


「え、なに、くすぐり…?」

「ちげーよばーか」

「、わっ」


ぐっと力が入ったと思えばこの身体を軽々しく持ち上げてバイクに乗せてくれる。

そのまま倒れないようにバイクを支え、スタンドを上げて自分も跨った。


「……」


乗りにくいって言ったら乗せてくれた。ただそれだけのこと。

それなのにどうしてこんなに、何かが迫ってくるような、追いつきそうで手の届かないような、もどかしいような気持ちになるんだろう。心臓があわただしく動き出すんだろう。


乗りにくいじゃねーよってまたけんかになるんじゃないかと思ったのに、気にしてないとでも言うかのようにバイクは風を切る。


「どこ行くの?」

「……」


聞こえていないのかな。それともわざと無視なのか、答えられないのか。

成咲はこれから先、どこまで遠くに行っちゃうんだろう。