この塔は、ルルが修道院に入れられる前に暮らしていた場所だ。
 繊細なレースがふんだんにあしらわれたベッドや猫脚の家具は、子どもサイズながら上質な品なので大人が使っても問題ない。

「ルルーティカ様こそ、ベッドを使われてはいかがですか?」
「ううん。ここでいい……」

 部屋の様子は、ルルが出て行く前と少しも変わらない。だからだろうか、部屋のあちこちに、幼い頃の自分が息づいているように感じた。

 この塔は、魔力があった頃の、父にも母にも大切にされていた『ルルーティカ王女』が生きていた証だ。
 無能になってしまった現在のルルは、それを上書きしたくなかった。

 ノアは「ルルーティカ様の物は使えません」と立って、窓から中庭を見下ろした。手綱を解いたキルケゴールが噴水の周りを散歩している。

「聖王城だけあって、一角獣《ユニコーン》に手を出す者はいませんね」