離れていこうとしたノアを、かたい声で呼び止める。
 彼は、毛布から顔だけ出すルルを、不思議そうに振り返った。

「なんでしょう?」
「あなたは、どうして、この傷について、何も聞かないの?」

 ノアとルルが一緒に暮らすようになって長い。
 昼間もなんだかんだと一緒にいるし、夜はくっついて眠っている。寝乱れた前髪のあいだから見える傷跡には、とうに気づいているはずだ。

「これは、ユーディト研究所の事故で負ったの。あなたなら知っているわよね。キルケシュタイン博士が主体になって、人工魔晶石の開発を行っていた場所よ。わたしは、王女としてそこを訪問して、爆発事故に巻き込まれたの――」