先ほど、マロニー地区の話が出たことで、ルルが世間知らずの無能ではないと気づいたのだろう。ジュリオがルルを見下ろす視線は、見下すような雰囲気から、刺すような攻撃性へと変わっていた。

 油断はできないと、ルルは気を引きしめる。
 曲が終盤に差しかかったところで、ジュリオは、ルルを掴む手にぎゅっと力を込めた。

「っ、痛いですわ。力を抜いてくださいませ、ジュリオ王子殿下」
「痛むのは、君がひ弱なせいだろう。僕は知ってるんだよね。君が、修道院にお籠もりだった理由――」

 足を止めて、ジュリオはルルの前髪をかき上げて、にいっと笑った。

「――こんな醜い傷跡、人前にはさらせないよね」
「あ……」

 ルルの額にある大きな傷跡が、衆目にさらされた。
 一瞬にして静まった会場に、集まる非難の視線に、ルルは動けなくなる。