「それが理由?」


私のどろどろとした感情を聞いた彼は、表情の変わらない冷めた目で見下ろしてくる。

なんだか分からないことばかり言って呆れてるんでしょ、自分だって情けないと思ってる。でもどうしようも出来ない。


「そうです、だから離して!」


もうこの手段しか、私には選択することができなかったんだから。彼に掴まれた手が緩んだ隙に、その場から去ろうと一歩踏み出した。



「助けて欲しかったんだろ」



彼がふと呟いた言葉に思わず足を止める。



「ずっと助けて欲しくても言えなかったんだろ。…違う?」

「………」



冷めた目のまま首を傾げる彼は、呆れているようになんか見えなかった。

違わない、ずっと助けてほしかった。でも誰にも言えなくて、気づいてももらえなかった。何度も助けを求めたくて、本当は今だって助けを求めたくて仕方なかった。


無愛想で何を考えているのか分からない表情をしているから、内心自殺しようとしている私を見下しているんじゃないかと思っていたのに。なんで私の気持ちを理解しようとしてくれたの。

私が吐き出した感情を馬鹿にしないで、どうしたかったのかまで理解してくれた。きっとそれっぽいことを言っただけに違いないのに、でもなんで、そこまでして知らない私を止めようとするんだろう。

ただ偶然見かけただけの私を、説得しようとしてくれるんだろう。誰かの善意を感じることが少なかった私には、たったそれだけのことなのに心が揺れ動かされてしまいそうだった。