「琴子の元気がないのは、美優の記事が原因?」
かなりお酒もすすみ、頬を赤らめた麗が私をジッと見る。

私は何も答えなかった。

「美優や、美優の親が賢兄との縁談を薦めたがっているのは確かよ。賢兄はその気がないみたいだけれど」

やっぱり、美優さんと賢介さんの縁談は実際にあるんだ。
覚悟はしていたけれど、麗の口からきかせられるとショックではある。

「でも、まだどうなるかわからないわよ。人の気持ちなんて変わることもあるしね。ただ色んな人の思惑が絡んでいるから、賢兄としては簡単に突っぱねられないんでしょ」

なるほど、思惑ね。
まあ、私には関係のない話だわ。
私はポテチに手を伸ばしながら、二本目のビールを開けた。

「琴子、やっぱり気になる?」
「別に。私がどうこう言う話じゃないでしょう」
私の顔を覗き込む麗を避けるように、一気にビールを流し込んだ。

「かわいくないわね。気になって仕方ないって、顔に書いてあるのに」
「気のせいよ」

そう。私はただの居候で、いつかこの家を出て行く人間。
美優さんは好きではないけれど、賢介さんにとってふさわしい人なら喜んで祝福するつもりだ。

「馬鹿ね。自分に正直に生きないと、後悔するのに」
本当に馬鹿ねと、麗が口にした。

私だって、麗の半分でも自分に自信があったら、素直になれるのかもしれない。
でも、無理。ここは仮の住まいなんだから。

結局、明け方まで二人で飲んだ。
幸い今日は土曜日で、仕事は休み。
明るくなってから眠りについた私たちは、昼過ぎまで起きることはなかった。