その後、どうやって午後の勤務を終えたのか正直記憶がない。
ただ、美優さんと賢介さんの記事が頭の中を巡っていた。

思い出したのは、以前美優さんが言っていた言葉。
『賢介さんとの縁談は、家同士の利害関係がある。だから、ただの恋愛とは違う』
もしそれが本当なら、私は完全な邪魔者だ。

「琴子」
肩をポンポンと叩かれて、私は振り返った。

「どうしたのよ。ボーッとしちゃって」
おしゃれに決めた麗が、そこにいた。

「別にどうもしないけど・・・」
つい自分の姿を見返して、肩を落とした。

さすがにジーンズではないけれど、通勤着にしてはカジュアルな私の服装。
もちろん制服があるんだから困ることはないけれど、オシャレとは程遠い。
特にビシッとブランド物の服で決めた麗の隣に立てば、貧相な感じは否めない。

「元気がないわね?」
「そんなことないよ」
言いながらも、自分でもテンションが低い自覚はある。

「ねえ、飲みに行こうよ?」
私の落ち込みが分かったのか、麗が誘ってくれたけれど、
「今日はやめとく」
先日外泊して怒られたばかりだし。

「じゃあ、琴子の家に泊めてよ。それならいいでしょう?」
「えーっ」
思わず口を尖らせた。

居候先に友達を呼ぶなんて、図々しい気がする。
でも、ものは考えようだ。
麗がいれば賢介さんと二人きりになることもない。

「わかった、おばさまに訊いてみるわ」
私は自宅に電話をかけることにした。

当然、おばさまは喜んで麗を招待しなさいと言ってくれた。
よかった。
これで、賢介さんとの居づらさが和らぐ。
ホッと胸をなで下ろした私は、麗と2人買い出しをして自宅に向かうことにした。