あれ以来、賢介さんも何も言ってこない。
おじさまもおばさまも変わりなく優しく接してくれて、いつも1人でがむしゃらに生きてきた私が誰かに守られることに慣らされていく。
平石家での暮らしは心地よすぎて、時々逃げ出したくなった。
失うことが不安で、傷つくことが怖くて、そうなる前に自分から手放したくなるのだ。

「うわー、美優ってやっぱり専務のお相手だったのね」
昼食の休憩時間に、社食でランチをつつきながら彩佳さんが口にした。

ん?
美優さん?

見ると、彩佳さんの手には週刊誌。
見開きのページに、『モデル美優と平石財閥御曹司が婚約か?』の記事。
あれ、賢介さんの写真も載っている。
でも、そんな馬鹿な・・・
ランチを食べる手を止めて、私は週刊誌を覗き込んだ。

「琴子ちゃん、知ってた?」
「いいえ」
彩佳さんに訊かれて、私は首を振った。