「彼女とは5年前に一度別れました。俺が、夢を捨てきれず、彼女を置いて海外に夢を追いかけるために進みだしたのがきっかけです。当時、俺はのどにポリープがあって、手術が必要でした。手術をしてまた同じように歌を歌えないかもしれない。そう思った時、俺は彼女との未来よりも、夢を選びました。」

麻衣は知らなかった事実に、理久の表情に、声にくぎ付けになる。

「彼女に夢に向かって一緒に歩んでほしいなんて言えなかったんです。その夢も、追うことすらできなくなるかもしれなかったから、そのリスクを彼女に負わせるわけにはいかなかった。」

麻衣の瞳から自然に涙があふれ出す。

「夢をあきらめられず、彼女との未来を選べなかったことを後悔しながら、がむしゃらに音楽と向き合ってきました。今の俺があるのは、彼女の存在があったからです。彼女の存在が俺を突き動かしてくれました。今、こうして音楽ができているのは彼女のおかげなんです。」

麻衣の頭の中に、五年前の理久との光景が鮮明に思い出される。