洗面台の前、二人並んで歯磨きをするだけでも二人にとっては新鮮で幸せな瞬間だった。

「退院したら、俺のマンションで一緒に暮らしてほしい。」
朝の検温と朝食を済ませてから理久が麻衣に言う。
「いいの?」
「あぁ。そのほうがセキュリティもしっかりしてるし、俺も何かと安心だ。必要なものは今からネットで見て一緒にそろえて行こう。麻衣の今の部屋からの荷物の引っ越しは俺が全面的にやるから、麻衣は無理しなように。」
「ありがとう」
「それから」
「ん?」
理久が麻衣の髪をとかし始める。

「今日は俺、ここで仕事するから診察も付き添うし、麻衣のお母さんにちゃんと話がしたい。」
理久の真剣な表情を鏡越しに見た麻衣は何を理久が話すかすぐにわかった。

「うん」
2人で前に進むと決めた。
そのための準備を理久は次々に進めていく。