『はい?』
「・・・」
稜真は自分の手をギュッと握り、その手を見つめながら唇をかみしめる。

ここで自分がすべてを理久に伝えたら、麻衣は理久と幸せな未来をつかめるかもしれない。

『加藤さん?』
「・・・」
『もしもし』
呼び止めたまま話をしない稜真に理久が聞き返す。
『もしもし?』
「瀬波さんは歌うことが一番ですか?」
『え?』
「この前のコンサートで言ってたんで。大切な人がいるって。」
『あー・・・。そうですね。今はもう一度歌うことに向き合うって約束したんで。その大切な人と。今は歌が一番です。・・・かね。事務所も立ち上げて、いろいろと慌ただしくて。想像以上にいろいろ知らないこともやらないといけないことも多くて。』
「・・・」
戸惑うように返事を返す理久。
稜真は握る手に更に力を込める。