「立会人が必要かな?」
不意にかかった第三者の声に、居合わせた人間はそれぞれの反応を見せた。多くの者はそれが誰なのかと戸惑い、ギルバートとソフィアなどのひと握りの者は驚愕の表情を浮かべている。エドナもまた一瞬息を呑み、姿勢を正して一礼をする。
「王弟殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
その呼び掛けに、ほとんど事態の見物客となっていた人々が半信半疑ながら慌てて膝を折り敬意を表していく。
ふわりと撫で付けた眩いほどの金髪に碧の瞳は、王家の血筋によく現れる特徴そのもの。式典に合わせてか、藍色という落ち着いた色味のスーツという出で立ちであるものの、シンプルな装飾と相まって一層その存在感を引き立てている。学生たちが灰色を基調とした強くはない色合いの制服であるからなおのこと。
「お越しでしたのね」
「せっかくだからね。まあでも主役は卒業生だし、何事もなければひっそりと今日のこの日を祝福して見守るつもりだったんだけど……」
面白そうなことをしているね?
にこり、優美な微笑みを浮かべるのは現国王の末弟。幼い頃から病弱なために学園に通うことのなかった彼は、公式の場に現れることもそうそうなく、周囲からは「あの方が……」「ご病気だったのでは?」とざわめきが起きている。
「……マリウス殿下、ご無沙汰しております」
「やあ、ギル。どのくらいぶりだろう、半年……いや一年近いかな?」
ギルバートの床に膝をついての再会の挨拶に、マリウスは気さくに笑みかける。幼少期から面識があり親しくしてきたからこその気安さで、しかしギルバートの側は後ろめたさでもある様子でぎこちない表情を返す。
それもそのはず、とエドナは嘆息する。幼い頃から育んできた友情を裏切る行為を、今まさにしているところなのだから。
エドナが道義に反する行ないをしていたと思い込んでいるとはいえ、話し合いを持つこともせずに婚約者を切り捨てようとしているのだ。たびたび病床に伏せる、自身の未来さえ望めないだろうマリウスの前で幸せにすると誓っていたというのに。