エドナに見覚えならもちろんあった。遠目からはただの白い布切れだが、よく見れば丁寧で繊細な刺繍が入っているはずだ。
ギルバートの父親であるトレイズ家当主の管理するモルテッサ領産として主に貴婦人に好まれて使用されているハンカチーフであり、エドナのものだろうと断定してきていることから、トレイズ家の印章が白糸での刺繍にて施されているに違いない。
そうだとするなら、彼が疑いをかけるのも無理はない。トレイズ一家と、いずれ家族になるエドナと、毎年その人数分しか用意されていない品なのだから。
「あら、確かにあなたからいただいていたもののように見えますわね」
「ソフィアの荷物が荒らされた現場に落ちていた!」
「おかしいですね、私のものはこちらにありますが」
エドナは制服のブラウス胸ポケットからほとんど同一と見えるものを取り出す。
「そんなもの、お前なら何枚所持していてもおかしくはない」
「ええ、毎年一枚ずつ増えていましたから直近三年分は残しておりました。ではそちら、よく見せていただいても? ああ、どなたかお持ちくださるかしら、すり替えられたなどとあとから疑いをかけられたくはないですから」
微笑さえ浮かべギルバートたちのそばへと歩みを進めたエドナは、彼の友人ジョルトが広げ持ったハンカチーフに顔を近付けた。
手に取らなくても分かる、布地と同色でありながらはっきりと描かれたトレイズ家の印章、縁取りまでが美しく仕上げられ、間違いなく彼の身内だけが持つはずのもの。
「……これは、最近の流行りを取り入れられているようですわね」
だからどうした、とギルバートは訝しげに睨む。
「毎年いただいていた、と申しました。今年は届いていないのですけれど、遅れているのかと以前確認してみたところ例年通りの枚数をとっくに作られていたとか。こちら、どなたに贈られたものなのでしょうね?」
エドナが小首を傾げて見つめると、ギルバートの表情は険しさを増し、
「まあ、ソフィア様。お顔の色が優れないようですが大丈夫でしょうか」
彼以上に、その影から覗くソフィアの顔色の変化は顕著。愛らしい唇をきゅっと引き結び、ギルバートの腕に縋りつく。