「ただの行き違いでしょう。謹慎処分程度が妥当かと思われますが、父親が娘を軟禁というのも辛いでしょうから、当家で責任を持って監視しておきますよ」
「親切な申し出ですね。だが、ナリス先生、あなたでは不適任だ」

 薄らと笑みを浮かべるマリウスに、ナリスの眉がぴくりと動く。

「お嬢さんと特に親密なうちの一人だと報告を受けています」

 二人は静かに対峙しながら、マリウスは長身のナリスの顔を覗き込んだ。

「なんでも、あなたの邸宅には彼女の私室同然の部屋があるそうですね」
「あら? ギルバート様のお宅でもそんなお部屋があると小耳に挟んだような……?」
「それはそれは。いったいどのような関係なのだろうね?」

 次第に周囲のざわめきが大きくなっていく。
 ギルバートは言葉もない様子で、「ソフィア……!?」とジョルトをはじめとした男子生徒が青ざめた顔で詰め寄る。

「学生たちはまだしも、大人であるナリス先生までとは。あなたも父親に引き取られたという経緯をお持ちだ、それゆえに彼女の身の上を自分と重ねての情けからなのか……ねぇ、伯爵?」
「まあでもソフィア様はギルバート様とご結婚されるおつもりはなかったとのことですし、ナリス先生がこれまで独身を貫かれていらしたのはソフィア様との出会いを待たれていたのかもしれませんね」

 なんてロマンティックなんでしょう。言って目を細めるエドナに、ナリスは眉間にくっきりとした皺を刻み、鋭い眼差しを投げつける。