「馬鹿なことをしたな、ギル。残念だよ」
「そんな……」
瞠目するギルバートは膝から崩れ落ちた。
「……借金なんて、僕の働きでなんとかなると……」
「いつの状態だい、それは? ご当主たちによると先々のためにと費やした資金もまだ回収出来る段階にはいたっていないようだし、そう、この一年で君が無駄に消費したのも痛手だったらしいね。仮に君たちが結婚したとしたら負債は膨らむばかりだろうと、いっそ諦めがついたらしい」
父親が借金を抱え苦労していたこと、だからこその婚約であることは承知していたはずなのに、身勝手に、それもこのような大それたことをしでかした。勢いで自分たちの正当性を主張するつもりだったのか知らないが、結果として無様な姿を自ら晒すことになっただけだ。
「お嬢さんもよかったね。男一人の運命どころか、危うく大勢の人生を狂わせるところだったんだから、助けてくれたネルヴィア家に感謝しないと」
「大袈裟ですわ。これもご当主様がご相談くださったのと、モルテッサには廃れるには惜しいものがあるからだと父も申しておりました」
これは投資であり情によるものではない。
私情を挟むならあらゆる手段を用いてネルヴィア家で領地を乗っ取ることも考えられた、上手く回せば生きる土地なのだ、しかし少なからず反発があるのは当然であり、強引に事を押し進めるのは得策ではない。ギルバートがこのような事を起こすと予想してはいなかったが、いずれ二人の関係破綻について公になることは当然として、立つであろう向こうの悪評に便乗する形でその時にこそ……と、画策していたのだから、感謝などされてもおかしな気分になるだけ。それも、今こうして自分たちから窮地に陥ってくれたなんて。
「だから領地のこと、ご両親のことはネルヴィア家に任せればいい。ここから先のことはもうギルには関係ないしね。男爵の唯一の令嬢であるお嬢さんのところへ婿にでも入れば、君はこれからもやっていけるだろうし」