「ひゃっ、やめてぇええええ!!だめだめっ、だめだってばあああはははあああああああはああはああはあああああ!!」
久須栗小学校5年2組の教室には、悲鳴交じりの笑い声がけたたましく響き渡る。
くすぐられているのはクラスで1番の美女と言われている美穂《みほ》だ。
目鼻立ちが整っていて145センチの高身長を誇る美穂はあこがれの的であり、今までに10人以上から告白されたという噂が流れている。
「美穂ちゃん暴れないでよぉ」
三咲《みさき》は、美穂の脇をがっちりと抱えている。身長は美穂より10センチも小さいが、レスリングをやっているため、いくら暴れても脇固めからは抜けられない。
一葉《かずは》はわき腹を、二花《にか》は膝をそれぞれ慣れた手つきでくすぐっている。
一葉はピアノ、二花はバイオリンを幼稚園の頃から習っているため、指さばきは折り紙付きである。
美穂たち4人組はいわゆる”いつメン”というやつで、休み時間のたびに4人で一緒に遊んでいる。
美穂がくすぐられるようになったきっかけは、3日前。
たまたま一葉の手が美穂の脇腹に触れたとき、
「ひゃんっ!」
一葉の指がほんの軽く当たっただけにもかかわらず、大声をあげた。
「ごめん。痛かった」
一葉は大きな声を出したことに驚き、神妙な顔で謝った。
「そうじゃなくて……」
美穂はもじもじしている。
「もしかして、美穂ってくすぐったがりなのぉ?」
二花は脇腹に手を当て、軽く動かす。
「きゃははっはっははああああ!!」
それから、3人は美穂の脇腹をくすぐり続けた。
あの日以来、4人でいるといつもくすぐられる。
くすぐられているときは、楽しいのと苦しいのが入り混じった不思議な感情に支配される。もっとも、くすぐられている最中にそんなことを考える余裕はない。ただただ一葉と二花の指から逃れようと暴れるのみである。
「きゃははっ、はぁああああ!ははっはああああははっはっはは!!やめてぇええええええええ!!」
椅子に座らされ、背もたれの後ろで両手をつかまれている。この体制ではくすぐりの魔の手から逃れることはできない。少しでもくすぐったさから逃れるために、足をバタバタさせている。
「どこが一番くすぐったい?」
一葉が意地の悪い口調で聞く。もちろん、くすぐりの手は止めない。
「わっ、脇腹!!ははっはああああははっはっはは脇腹は、ほっ本当にぃくすぐったいからぁぁああああっ、やめてえええええええええ!!」
一葉と二花の顔がにやりと笑う。
4本の手が脇腹へと集中する。
「いいこと聞いちゃった」
「ちょっと!本当に無理だからやめてっ、きゃははっはっははああああはっはかあははあぁはあああ!!」
一番の弱点である脇腹を20本の指で責められ、美穂の顔がよだれまみれになる。
楽しくて苦しい、美穂にとっては永遠のように長く感じられる昼休みのじゃれ合いを遠くで眺めている人影があった。
今日の昼休み、体育館横の倉庫にきてください。
2人きりでお話したいことがあります
泰典
今朝登校したら下駄箱の中に手紙が入っていた。ちなみに泰典くんは陸上部のエースで、一言でいうとイケメン。泰典君には熱狂的なファンクラブが存在し、20人以上が加盟しているとの噂が流れている。
実際一葉が泰典くんにぞっこんで、クラス替え2日目に告白してフラれたのは有名な話。
「簡単に言います。美穂ちゃんのことが好きです。僕と付き合ってください」
予想通りだ。人気のないところで二人きりになって話すことといえば、告白ぐらいしかない。
「ごめんなさい。他に好きな人がいるので、付き合えない」
何となく考えていたセリフだ。もちろん泰典君はかっこいいし、スポーツもできるけど、私が付き合いたい人はほかにいる。
「そっか、だめだったか。なら仕方ない。こうなったら奥の手を使おう」
えっ。奥の手って何?
「きゃはははっ!」
考える間もなく、電流のような刺激が全身に流れる。
泰典くんの手が脇腹を揉むように動いている。
「だめぇっ!やめてっ」
「もう失うものはないんだ。こうなったら思う存分くすぐってやる」
やけになった泰典くんが襲い掛かってくる。
抵抗しようにも、体から力が抜けてしまい、泰典くんの手を振り払うことができない。
泰典は強引に美穂のことを押し倒すと、あおむけになった美穂の膝の上に乗りかかり、わきの下や脇腹、おへそ周りを絶え間なくくすぐり続けた。
「きゃははっはっははああああ!!ははっはああああははっはっはは!だめだめっええええええええええええ!ははっははははっはははきゃはひゃあああああ」
泰典の乱暴なくすぐりは昼休み終了のチャイムが鳴るまで続いた。
二花が遠くから体育倉庫の光景を眺めていることに二人は気づいていなかった。
「みんな待っててくれたの?先に帰ってもよかったのに」
林間学園実行委員会の集まりが終わって教室に戻ると、一葉たち三人がおしゃべりしていた。
「いいのいいの。美穂に用事があったから」
一葉たちが私の席に近寄ってくる。
教科書をランドセルに入れ帰り支度をしていると、突然両手の自由が失われた。
「えっ、何?」
三咲に両手をつかまれる。いつものパターンだ。
「ひゃんっ!きゃははっはっははああああ!!ははっはああああははっはっははははっはhっはっははあ!もう無理っ!無理だってばぁ」
40本の指が体じゅうを暴れまわる。
二花が膝の上に座っているため、足をばたつかせることすら許されない。
「膝もくすぐったいの?」
意地悪な視線を向けてくる二花。
膝の上に爪を立て、じわーっといたぶるように広げる。
「きゃははっはっははああああ!くしゅぐったいぃいいいい!やめてぇえええ!」
両手を動かそうとするが三咲にがっちりつかまれているため、自由に動かすことができない。
「泰典くんには何て言われたの?」
二花と一葉はくすぐりの手を止めるが、三咲には両手をつかまれたままだ。
二花が泰典君に好意を寄せていることは知っていた。だから私が告白されたことは黙っておいた。なのにどうしてそのことを知っているのだろう。
「好きだから付き合ってください、って言われたけど……」
「私が二花君のことを好きなのことって美穂も知ってるよね!」
少し怒ったような口調だった。
「なのになんで付き合うの?ありえないんだけど!」
急な展開にしどろもどろになってしまう。なんで勝手に泰典君の彼女にされているのだろうか?
「ちょっと待って。私は断ったよ?」
「私見てたんだから。泰典君とイチャイチャしているところ!」
誤解だよ。言おうとした瞬間、脇腹に刺激が走る。
「ひゃっ。きゃははっはっははああああ!無理ぃいいいいひひひひhははっはああああははっはっはは!くっくしゅぐったいぃいいいい!」
二花の十指が脇腹を蹂躙する。
一葉はというと、上履きを脱がせ、足の裏に爪を立てている。
「はっはははきゃはひゃあああああ!無理無理むりぃいいい!!きひひゃああああああああああああああ!!やめてぇえええええええ」
ずっと私の太ももに座っていた二花がすっと腰を浮かせる。
やっと解放される。安堵しかけたとき、ふいにスカートがまくり上げられた。
「えっ?」
「美穂ちゃんこんなパンツはいてるんだ」
やだ、恥ずかしい。いくら女の子同士とはいえ、パンツを見られるのには羞恥心を感じる。
「可愛い!」
一葉も遠慮なくスカートの中をのぞいてくる。
「私も見たい」
後ろで手を抑えている三咲が言うと、二花はおもいきりスカートをたくし上げた。全方向から薄ピンクの下着が丸見えになる。
「見ないでぇ!」
「顔真っ赤だよ。熱いの?」
二花が笑いかける。
指を太ももとパンツの境目に当て、ゆっくりと動かす。
「ひゃんっ!」
思わず声を漏らした。今まで感じていたくすぐったさとは少し異なる感覚に戸惑う。
「泰典くんとイチャイチャできて楽しかった?」
「きゃははははっはは!!やめぇやめてぇええええはっはっはははあはああああ!ははっはhっはhがgははははは」
誤解はまだまだ晴れそうにない。
「美穂……ごめんね……」
ようやく誤解を晴らすことができた。
ぐしゃぐしゃになったスカートを整える。
「はぁはぁ……私も勘違いされるようなことしてごめん。ラブレターのこと事前に言っておけばよかったね」
ようやく息が整ってくる。今までのじゃれあい以上に激しいくすぐりと辱めを受けた後の身体は消耗が激しい。あと5分責めが続いていたら、限界を迎えていたと思う。
「二花ひどいよ。パンツの中に手を入れようとしてたでしょ……」
「ごめん。さすがにやりすぎたかも……」
「でもぉ、美穂も楽しそうにしてなかった?それと、気持ちよさそうにも見えたけど……」
それを言われると、完全に否定できない。太ももに指が這った瞬間、くすぐったさとは違った”何か”が全身を貫いた。
「やめて」とは言ったけど、もっとやってほしかった気もする。もちろん、そんなこと恥ずかしくてみんなには言えるわけがない。
「そんなことないよ。耐えられないくらい苦しかったんだから……」
顔を真っ赤にして下を向く。
「そういえば、林間のクラス行動どこになった?」
来週には林間学園だ。すでに4人同じ部屋になることが決まっている。
「信越牧場。乗馬とアイスづくり体験になった」
「楽しみ。馬の背中ってどんな感じなんだろう」
三咲は4人の中で1番アウトドアな性格だ。
思えば美穂は1時間前まで林間学園の実行委員会に参加していたのだ。
泰典くん騒動がひと段落したら今度は林間学園。彼女たちのおしゃべりの話題は尽きない。