五十嵐 柊は中学2年の時に私のクラスの転校生として登場した。

背が高くて肌が白くて狐のような釣り目で…お世辞にも目つきがいいとは言えなかった。
ちょっと長めの襟足と前髪で伏し目がちの表情は少しセクシーささえ感じた。
今思えば、当時はあんな男の子が人気絶頂だった気がする。

「五十嵐 柊です。」

思ったよりも低い声でなんだか機嫌が悪そうだった。
恥ずかしがり屋…というよりも反抗期を感じる自己紹介は
たったそれだけ。そう言って彼は静かに下を向く。

「五十嵐君!何かあだ名はあるの?」

そう声を上げたのはまるで女子代表の志保。


「は?」

それに対して五十嵐柊は思いもよらぬ返しをして教室をピリッとした空気に変えた。

「…じゃ、じゃあ五十嵐君の席は、その坂野の隣な。」

思わず先生も席を指さしたが
既に先生が言い終わる前にすたすたと席に向かい着席をしていた。



「よろしくね。」

志保はそれでも懲りず、笑顔で隣の席になった転校生に声をかける。
彼はそんな志保を横目でちらっと見て目を反らしたのだった。
マドンナに対するその反応があまりにも珍しくてその日のことは今でも忘れない。