「ねぇ」

不意に、小さな声が上がる。


「明日の一時間目って、なんだっけ」

〝明日〟という言葉をやけに強調して、渚がこちらを振り返った。時間割を聞かれただけ。たったそれだけのことなのに、渚が纏う空気には、不安定な危うさがあった。


「現国、だったと思う」

「……そっか」


寂しそうに俯いて、アスファルトと目を合わせるその姿が、やけに虚ろで朧気で、このまま夜に呑まれて消えてしまうんじゃないかと思うくらい儚くて、だけどそれを望んでいるかのように見えた。

どうしてそんな風に見えてしまったのか、そんなことは考えなくても分かるような気がするし、いくら考えても分からないような気もする。まるで物語の伏線のように。

もしこれがなにかの伏線だとするならば、この先あまりよろしくないことが怒るのだろうか。背筋がぞっとして、一切の思考を停止した。

願わくば、ずっとこのままであって欲しい。そんな祈りを込めながら、わざと足音を大きめに立てた。