「じゃあ、私そろそろ帰るね」


三人がけのソファから腰を浮かせながら、帰り支度を始めようとカーペットの上の鞄に手を伸ばす。

夕食の後にライブ映像まで見てしまったので、すっかり遅くなってしまった。窓の外は、とっくの昔に夜色だ。


「もう暗いし送ってくよ」

「え、いいよ悪いし」

「いいから。最近この近くで不審者情報出たの忘れたの? 大人しく送られておきなさい」

「はいはい」


外に出ると、辺りは夜独特の静寂に包まれていて、暗い街路を縫うようにしてライトの灯りが灯っていた。

木枯らしのせいで少し肌寒く感じるからか、ぽっかりと浮かぶまどかな満月がやけに冷たく澄んでいる。

薄い薄いヴェールのような静けさをそっと破るように、私達は歩き出す。

CDやライブ映像の感想はさっき散々語り合ったので話題の種がなく、自然な沈黙を保ちながら二人分の足音を奏でる。なんとなくの高揚感と開放感に身を任せ、渚の三歩後ろを歩いた。