「麦茶しかなかったわ」


冗談めかした口調でそう言ってから買ったばかりのCDをプレイヤーにセットして、慣れた手つきでリモコンを操作する。短い読み込み時間を挟んで、音楽が部屋を支配した。

お互いじっと耳を澄ませて、流れる音楽と歌詞カードを追いかけた。スピーカーから流れるほのかに甘い天然水のような歌声が、丁寧に歌詞を紡いでいく。


卒業して二度と会えなくなる先輩を想う歌。死んでしまった恋人の後を追い、自分までもが命を捨ててしまう歌。


流れる歌詞にどうしてだか自分を重ねてしまい、後ろめたさに蓋をするように、CDのカバージャケットに視線を移した。

彩度の低い水彩風のイラストに、さり気なく施された露華のような加工が輝く、繊細で曖昧で儚い雰囲気のデザイン。

コップの麦茶を1口飲むと同時に、次の曲が流れ出す。さっきとは全く違う曲調。陽気で寂しげで真っ直ぐな、幼馴染同士の歌。

静かに呼吸を繰り返し、曲に耳を傾けた。