「うん…」

震える麻里の体を抱きしめて、あたしは大きく頷いた。

あたしだって、痛いくらい麻里の気持ちがわかる。

自分の存在なんてとっくの昔から奥さんにはばれているはず。
子供だって、大好きなパパをとられて憎んでいるはず。
貴也さんだって苦しんでいるはず。

でも、
それでもお互い離れられないのは
愛してしまったから…



「だけど、倫はまだ遅くない」

「え…?」

麻里は両手であたしの両手をそっと包みこんだ。

「倫は苦しまないで・・・?あたしみたいな過ちは、犯さないで・・・お願い・・・」

「・・・」

「倫・・・おねがいっ・・・」

「・・・ごめん」

「倫っ・・・」

「あたし、教室戻る」

包まれていた手を振り払って、あたしは立ち上がった。

「麻里」

「っ・・・っく・・・」

「心配してくれて、ありがと。でも・・・もう遅いの」