「いや、本当に大したことじゃないから……」

前世でしていたように笑って誤魔化そうと試みる。でも、「絶対嘘でしょ」とメルキュールに言われ、逃げ道をどんどん塞がれていった。でも、この気持ちを打ち明けたらみんなはどう感じる?きっと傷付くに違いない。

「何でもないんだ。気にしないでーーー」

僕が言葉を続けようとした刹那、「ナール!」と呪文を唱える声がした。待って、この声、聞き覚えがある。

「今の声って……」

エリカが呟いた刹那、パサリと音を立てて一冊の本がリビングに落ちてきた。灰色の暗い表紙の本だ。その本は見覚えがある。この本はーーー。

ゴウッと強い風が部屋の中に吹いた。まるで竜巻のような風だ。不気味な緑色の光を纏い、リオンたちを本の中へと吸い込んでいく。

「リオン!エリカ!メルキュール!カズ!シャルロット!」

僕は慌ててみんなを掴もうとするが、その手が届くことなく全員本の中へ吸い込まれていく。物語の世界へ入れる魔法が使える聞き覚えのある声の持ち主なんて、たった一人しかいない。