社会人となって、上司に連れられるようにして、あちこち出張する立場になった俺は、小さな頃からの想い人である彼女のことが気になりつつも、時間があまり取れずにいて…。


少しだけ焦れながらも、再会できる日を楽しみに、この日まで来たというのに。


「あんな姿の弥生子は…初めてだ……」


土砂降りの雨の中でも、その瞳に浮かぶ涙は、薄く透明で、こんな表現は間違っているんだろうけれど…キレイだった。


くるくると変わる表情は、幼い頃から可愛かった。


どれだけ、理不尽なことで怒られても、許しまえる程に。


……好きの欲目もあったのかもしれないけれど。



そこで、ベッドの上に投げておいたスマホがバイブしていることに、気付く。


画面には、弥生子の文字。


俺は余計なことをしたと怒られるか、珍しくお礼を言われるかのどちらだろうか?と思いながら、通話をタップした。