「アイツと何があったか、なんて今更案件だろーな」
彼女の大学時代からの彼氏、岩田真宏(いわたまひろ)は、とてつもなく博愛主義者だ。
良く言えば、の話。
悪く言えば…八方美人の浮気男。
それで、何度彼女が泣かされてきただろう?
最初はヤキモチを焼いたり、上手に駆け引きを楽しんで、付き合いを重ねていたと思う。
けれど、アイツが彼女を裏切る度に、彼女の心は摩耗していって…。
気付いたら、ヤキモチを焼くこともなく、怒ることもなく、ましてや駆け引きをする訳でもなく、ただただ静かに、他の女に愛想を振りまくその様子を静観するようになってしまっていた。
「弥生子、大丈夫か…?」
「……何が?」
「……なんでもない」
言いたいことは、山ほどあるのに口下手な俺は、いつも大事なことに口を挟めず、だんまりとしてしまう。
そんな俺にも興味がないのか、少しだけ虚ろな瞳で、キレイに整えられた爪を見つめ、彼女は誰に言うわけでもない、という風に、一言…。
「……消えたい」
とだけ言った。