「友達に相談しても、誰も心配してくれなくて……。いつも私が悪いことになって、もうどうしたらいいのかわからない!完璧になんて、なれないよ……」

静香の瞳から涙がこぼれ落ちる。一度あふれた涙は止まらず、静香は泣き続けた。それを潤は止めない。ただ、「そうだね。人はみんな完璧になんてなれないよ」と優しく頷き、静香にハンカチを差し出した。

「これはあくまで可能性なんだけど、もしかしたら桜さんはカサンドラ症候群かもしれない」

「カサンドラ症候群?」

静香と世人が首を傾げる。潤は二人にわかるようゆっくりと説明を始めた。

カサンドラ症候群とは、家族やパートナーなど身近にいる人物がアスペルガー症候群(現在の診断名は自閉症スペクトラム障害)であることが原因で、情緒的な相互的関係を築くことが難しく、心的ストレスから抑うつ状態や不安障害、PTSDなどの心身障害が起きている状態を指す言葉だ。カサンドラ症候群は周りからはなかなか理解してもらえず、本人に強いストレスがかかることが多い。

「お兄さんはよくコミュニケーションで人とトラブルを起こすんだよね?自閉症スペクトラム障害には、他者とのコミュニケーションが苦手でトラブルになることがあるんだ。お兄さんにはこの障害の可能性がある」