「い、いや。できてないけど」
私の視線は泳ぐ。
それより、蒙古斑バンザイはいかんて。
いい女感どころか、人間的な何かを疑われる。
こんなの落としていかないでよ、ナツ君!
「嘘つけ。庵歩さ、やっぱ変わったって。飲みに誘わなくなったのはともかく、誘っても来ないって、なんからしくない」
そう言って珠手は私の部屋を見渡した。
「第一、部屋が綺麗すぎるもん。
俺が来る日って大概、本が落ちてたり、キッチンに洗い物がたまってたり、とりあえず何かしらぐちゃってたし」
幸運にも私から視線を逸らし、ほとんど背を向けて失礼なことを惜しげもなく並べてくれていた。
心無い罵詈雑言に感謝すら覚えながら、私は目にも止まらぬスピードで、『もうこはんバンザイ』を回収することができた。
が、運悪く私が背中に隠した瞬間、珠手がこちらを振り向き、「今なんか隠した?」と問われる羽目に。
「ううん。何にも」
まさか『もうこはんバンザイ』などと言えるはずがなかった。