家にきた珠手は開口一番こんなことを言って私を驚かせた。


「男でもできた?」


 私は何にもないところで転けそうになった。

まさか、彼氏の「か」の字もなかった。
強いていうなら、最近ナツ君と幸助がよく遊びに来るくらいだ。


来客が増えたので、いやでも家は綺麗に掃除していた。


万が一にもナツ君が怪我をしたらいけなかったし、

あのすっとこどっこいの幸助に

「うわ、汚い部屋」などと思われたくなかった。なんか負けた気がするからだ。



それを『彼氏ができた』という夢のような話に発展させられるのは、珠手がモテるからだ。

私からすれば、ちょっと部屋を綺麗にしたぐらいで彼氏ができるわけがなかった。

逆も然り、恋愛に目覚めた私が、女子力を磨くようなこともない。



なんとなく下を向いた時だった。



『もうこはんバンザイ』



という謎の小さい紙が落ちているのが見えた。



どう考えてもナツ君が書いたやつだ。これには見覚えがある。
機嫌よくお絵描きをするように、ナツ君が『もうこはんバンザイ』と一心不乱に書きなぐっていた光景が脳裏をかすめた。


それは先に部屋に入った珠手と私の間に落ちていて、私はいち早く回収したくてたまらなかった。



「え、図星だった? 本当にできたのか?」



 沈黙を肯定と受け取ってしまった珠手は、目をまあるくさせて私を見た。幸い紙には気づいていないみたいだ。