駅まで送ってくれればと言おうとしたが、目黒だと透子の家まで遠くはないが、電車を乗り換えなければならない。
それにちょうど会社帰りの時間とぶつかり混んでいるタイミングだろう。
せっかくパティスリーサヤのケーキで満たされた充足感を、夕刻の車内のよどんだ空気に侵されたくなかったので送ってもらうことにした。

マヤと同じような派手な車に乗っているのかと思ったら、龍道コーチの車は国産のコンパクトSUVでホッとした。

龍道コーチは先に運転席に乗り込むと、助手席に置いたウインドブレーカーをすでにタオルやらパーカーやらテニスボールやらスポーツドリンクのボトルなんかで雑多に埋まっている後部座席に放り投げ、それから助手席のドアを開けた。

透子が車に乗り込むと車はすぐに走り出した。

「うちの場所、わかるの?」
「申込書みたからわかる」
「それ、個人情報漏洩だよね」
「見るって言ったよな」
「メアドと電話番号でしょ。住所までとは言ってないけど」
「じゃあ見てない。わからないから住所教えてよ」

子供か。

運転は滑らかだった。
透子は自分の運転が下手なせいもあり、車に興味はないが運転が上手い人に弱い。
バックミラーを見ながらキュキュッとハンドルを素早く切ってすっと車を縦列駐車されたりすると、うっとりする。
男性でも女性でも。

「運転上手ね」
「運転も、ね。好きになっちゃった?」
「運転は、ね」