「11年後の偶然の再会なんてあるのね」
「そのすごい再会を伝えるために、ここに至ったわけだ」
「それにしても」
「なんだ」
「11年でずいぶん、性格悪くなったね」
「うるせーよ。そっちこそさっきから人の心に矢をグサグサグ刺すようなこと言いやがって」
「刺さってるんだ、意外」

自分が昔助けた高校生だと知ったとたん、思ったことがするする口から滑り出てしまう。

「なあ」
「なに?」
「鎖骨、きれいだな」
「え、なに、突然!」

龍道コーチの視線からかばうように、透子は思わず鎖骨をかくした。

いつの間にか日が落ちて、明かりが必要なほどに暗くなっていた。
急に2人でいることを意識してしまい、透子はドキドキしてきた。
なにもかも美しいパーツを手にしている男はこんな風に適当に他人を褒めるのか。

「そういうこと安易に言うから生徒に追いかけられるんじゃないの」

透子の首筋から視線を上げ、だってほんとだもんと、まるで湯島天神で会ったときの高校生みたいな幼さで言うと龍道コーチは立ち上がり、ライトのスイッチを入れた。
白い光が部屋を明るく照らし、窓の外の夕暮れの暗さを引き立たせた。

そろそろ帰ると透子が席を立つと、送っていくと龍道コーチが部屋の出口に向かった。

「最寄りの駅までの道を教えてくれれば自分で帰れるわ」
「目黒だけどこっから駅まで15分はかかるし、ここら辺は住宅街でひっそりしているから痴漢も多いけど」
「え」
「またケガさせたらいやだから、今度こそ送っていくよ」